分析の原理

熱中症指標計

1. はじめに
2025年6月1日より、職場における熱中症対策が法的に義務化されることになりました。
これは、厚生労働省による労働安全衛生規則の改正によるものです。
📜 改正内容のポイント
1. 報告体制の整備と周知
•作業者が熱中症の自覚症状を感じた場合、または他者の異常を発見した場合に報告
できる体制を整備。
•連絡先や担当者を事業場ごとに定め、関係者に周知することが義務化。
2. 悪化防止措置の準備と周知
•作業からの離脱、身体の冷却、医師の診察などの対応手順を事前に定めて周知。
•緊急連絡網や搬送先の情報も含めて準備。
3. 対象となる作業環境
•暑さ指数(WBGT値)28度以上または気温31度以上の環境で、連続して1時間以上
または1日4時間以上の作業が見込まれる場合。
4.対象となる職場
•屋外作業(建設、農業など)だけでなく、空調が効きにくい屋内作業場や一部の
オフィス空間も対象になる可能性があります 。
この法改正により、企業や事業者は熱中症対策を「努力義務」から「法的義務」へと
強化されることになります。違反があった場合には、労働基準監督署からの指導や
是正勧告の対象となる可能性もあります。
まずは、対象となる職場で正しい機器で正しく暑さ指数を測定することが、法順守の
第一歩となります。
2.暑さ指数(WBGT値)とは
暑さ指数(WBGT値(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperature)は、
熱中症予防を目的として1954年にアメリカで提案された指標です。
もともとは輻射熱を測定する150mmの黒球の温度と、濡れたガーゼで覆った温度計で
測定する自然湿球温度と気温から算出する指標ですが、測定器の装置化や維持管理が
難しいため、JIS B 7922(電子式湿球黒球温度(WBGT)指数計)を制定し、
小径の黒球を用いた黒球温度、相対湿度、気温から推定して算出できるよう設計した
指標計を用いて測定するのが一般的です。
WBGT値の単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されますが、その値は気温とは異なります。
WBGT値は人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に
与える影響の大きい湿度、日射・輻射など周辺の熱環境、気温を評価した指標で、
気温より湿度や輻射のほうが大きく影響します。
3.WBGT値の見方
図1のグラフは、2008年から2018年の主要都市の救急搬送データを基に日最高WBGT値と
熱中症患者発生率の関係を示したものですが、グラフが示すようにWBGT値が28℃を超える
あたりから熱中症による患者が増え始め、その後WBGT値が高くなるに従って搬送人員数が
急激に増加する様子が見られます。
図1 日最高WBGT別熱中症搬送人員数 *1
厚生労働省では、各作業場所で測定したWBGT値が作業内容に応じて設定された
WBGT基準値(表1)を超えるかどうかで作業強度を判断するよう推奨しています。
4.熱中症指標計の選び方
WBGT値は「熱中症指標計」や「暑さ指数計」といった測定器で測定できますが、
気温や湿度の測定だけでは正しくWBGT値を測定できず、黒球付きのJIS規格適合品
で測定することが重要です。
黒球が付いていない熱中症指標計では特に炎天下の屋外や輻射熱のある作業場所において
はWBGT値が実際より低く表示される場合があります。またウェアラブルな指標計では
人体の体温や汗による湿度の影響を受けますので正確な測定には適していません。
前述のJIS B 7922規格では使用するセンサの測定精度によりクラス1、クラス1.5、クラス2
の3段階に指数計を区分しています。厚生労働省、環境省では本規格のクラス2以上の
熱中症指標計を用いることを推奨しています。またJIS B 7922は2023年に改正され、
日射のある環境下でのWBGT値の精度をより向上させるよう設計時に考慮することを推奨
しています。
5.WBGT値の測り方
WBGT値の測定は、基本的に作業場の様々な環境で定期的に測定することが望ましいですが、
代表地点で観測する場合は、日差しが避けられない場所や、最も暑くなりそうな場所で測定します。
またWBGT値は日射の有無によって算出式が異なりますので、熱中症指標計に屋内、屋外の
切り替え設定がある場合は測定場所に応じて必ず設定します。
ハンディー型の場合、持ち運びが簡単で作業場の様々な環境で簡単に測定ができますが、
測定場所によって温度や湿度の変動がありますので、測定値が安定するまで待ってから測定します。
特に黒球温度の応答速度が速い熱中症指標計のほうがより効率的な測定が可能です。
6.おわりに
熱中症予防には正しく測定したWBGT値に基づき、WBGT値の低減対策や休憩施設の整備等の
環境管理、作業時間の短縮、水分、塩分の摂取等の作業管理、身体状況の確認等の健康管理を
適切に行うことが重要です。
今回はその第一歩であるWBGT値の測定についてご紹介しましたが、それぞれの作業現場に適した
対策を工夫いただき熱中症予防に努めていただきたいと考えます。