コラム勝木氏 コラム

勝木氏 コラム

第二十四話 「容器検定」後編

日本酒醸造界のレジェンド、勝木慶一郎氏による連載コラム第二十四話、容器検定の後編です。
今回も、タンクなどの容器について詳しく解説して頂いています。

容器検定について、次のような質問が寄せられた。

MM.5㎘未満の容器の検定については、造りが一段落した6月中旬に、容器検定手順書に従い
3,000ℓのタンクの新規検定を実際に行いました。全く経験がありませんでしたが、上手くいった
と思います。そこで、現在使用している古い10㎘の密閉タンクを、今年秋の造り前に再検定した
いと思っています。所轄の税務署に「電磁流量計」があり、貸し出し可能と連絡がありました。
蔵には誰も使用経験がありません、具体的な使用方法を教えていただけますか? 

KK.まず始めに、10㎘タンクの概要はどんな様子でしょうか、お願いします。

MM.表示証では、タンクナンバーは、201番で、容量は、10,353ℓです。容器の検定日は、
平成2年12月13日になっています。タンクのメーカーは、九州灘ホーロー製です。

KK.九州灘ホーローは、福岡県の旧甘木市(合併で朝倉市)にあったが今は無く、醸造用
タンクメーカです。たしか酒母用の壺代タンクから、20㎘までタンクを焼成していました。
旧軍の戦車学校跡の広い敷地にある旧兵舎跡を事務所とし、タンク焼成炉が大小2基ありました。
作られた年代からみると、内部はグラスライニング濃紺の胴体部分の鉄板厚みは、4.5mあり、
底板は、ユーティリティタイプ(底面に傾斜があり液が残らない)にはなっていない、
底板面以下を払い出すには、ジャッキで後部を持ち上げるタイプでしょうか?

MM.密閉容器で天板のマンホールが手前にある「サイド・マンホール」型です。
検尺口がマンホール横にあります。底板面以下の酒の排出には、必ずジャッキで伸張に持ち上げ
傾けて使います。容器台帳の摘要欄には、「オーバル歯車式機械流量計」使用と記されています。

KK.それでは、具体的な手順書を示します。
1.10㎘の(大型)容器の容量を量る場合 
【 電磁流量計の操作方法 】

1)電磁流量計の原理
  いくつかの方式があるが基本は電磁流量計とは、コイルに電流を流して計測管内に磁界をつくり、
その中を流れる導電性液体の流速に従って発生する起電力の大きさを検出して流量を測定する流量計
です。計測管内に電磁石で磁界を作ります。この磁界中を導電性の液体が通過するとき、
電磁誘導作用:フレミング右手の法則により、磁界の向きと液体の流れの向きの両方に垂直な向きに、
流速に比例した起電力が発生します。 この起電力は流速に比例するため、計測管の断面積を掛ける
ことで、通過体積を計算することができます。

     


2)流量計配置図



3)標準仕様  azbil アズビル株式会社製 Magnew TM 3000 FLEX
  使用流体:清水または酒     容器検定時:清水
  測定範囲:7~30m3/h          :7m3~15m3  116ℓ/分~250ℓ/分
  許容圧力:0.5Mpa             :0.2~0.3Mpa
  使用流体許容温度:40℃          :10℃~25℃  20℃
  接続口径:2B(50A)            :11/2 (40A)
  使用電源:AC100V 50Hz or 60Hz     :AC100V 


4)実際の計器の設置状況








【step-1】口径面から肩面までの容量 (すべての容量に共通)
口径面から肩面の容量については、容器の大きさに応じて、次表に掲げる容量を基準として、
測定する場合には、その測定区分における容量を払いだし、同時に深さを測定する。



対象容器の大きさにより、払い出す水の量が決まる。
いずれのサイズの容器についても、デジタル秤を用いて容量をリットルに換算し計量する。

Point① 重量払い出しで測定する時には、必ず上吞口にボールバルブを取り付けその下に
デジタル秤に60リットルポリ容器を「風袋キャンセル」操作を済ませた後に払い出し、
予定の数量までバルブを調整し、慎重に秤とる。写真①②

Point② 測定区分に従い水を払い出した後、タンク内の液面の安定を確認して「尺」で深さを
計測する。右手(利き手)に尺を持ち左手指先で接液面の濡れた位置を爪で押さえる
と目盛りを確認しやすい。

Point③ 計測に使用する尺は、その都度水に浸かるために回数を重ねる都度に目盛りの読み
取りが難しくなる。事前に必ず、乾いたタオル、ティッシュで水を拭き取り、ヘアドライヤー
を使用し、必ず「接液部分」を乾いた状態で次回使用する。写真④


【step-2】肩面から底板面までの容量 (整円筒タンク及び整円すいタンクについては口径面)
肩面から底板面までの容量については、容器の大きさに応じて、次表に掲げる容量を基準とし
測定する場合には、その測定区分における容量を払いだし、同時に深さを測定する。



対象容器の大きさにより、払い出す水の量が決まる。
これより電磁流量計を使用して容器の検定作業をおこなうが事前に準備する作業がある

※容器容量が10㎘以上の大型のタンクの容器検定を行う場合には、呑口及び本器を含め
ホースサイズ2B(50A)及びポンプを流量計にそのまま接続し検定作業を行う。しかし、
容器サイズが最大10㎘程度の標準的な酒造場では、ポンプ及びホースサイズ2B(50A)を
使う蔵は無く、流量計の配管サイズをレジューサーにより40Aにサイズダウンして使用する。

1)あらかじめ、測定容器の上部呑口は、「ガスネジ付き呑」にボールバルブを接続し肩面
の重量測定に使用する。 Page-6- 口径面から肩面までの容量測定参照

2)下部吞口には、「ガスネジ付き呑」にフルボアボールバルブを接続するか、名城呑本器を
使用する場合には、できれば内径が大きい三号呑(32mmφ)を使用し、ポンプへ接続する
ホースは、1mの直線部分を取り可能な限り短めに接続する。

3)送水に使用するポンプの基本仕様は、濾過に用いるタービンポンプ 3.5Kw程度時間流量
10㎘以上の能力が必要。計測操作は、ポンプの作動と流量計の開閉バルブを連動させるために
ポンプSWのON・OFFは、マグネットSWの押しボタンで操作する


4)タンク > ポンプ >ホース直線配管部 >電磁流量計 >ホースの末端をタンクへ戻す。
流量計を使用するにあたり、装置を接続し、呑口を開き、流量計バルブを開け、ポンプSWを入れて
「測定水」を「循環運転」し、配管中の空気をバルブから抜き、循環する水で測定する時間流量
を流量計のディスプレイ表示を参照しポンプバルブの開度で調整する

※調整する流量範囲は、10㎘タンクであれば、10㎘/時間 瞬時流量指示値35%程度

5)なやましいのは、4㎘以上10㎘未満のタンクの場合は、測定区分が600ℓとなり流量計を使用する
場合には、時間あたりの流速を10㎘では毎分166ℓ流れ600ℓに要する時間はわずか4分弱となりストップ
バルブの閉鎖が難しい。したがって実用的な流量計の運用には、10㎘以上の容量のタンクがのぞましい。

6)次に実際の検定作業で難しいのは、デジタルで表示され連続可変していく流量を決められた流量で
バルブを閉鎖するには、ある程度予習をおこないどの程度手前の容量でストップさせるか流量計の
デジタル表示を参照し練習を積むひつようがある

3,000ℓ丁度を計りとる事は、事実上難しいので、2,986ℓ等少し手前の数量で実測を行う。


【step-3】底板面以下の容量 
※ 10㎘より大型タンク、底板面に残液排出傾斜がある容器は、3).4)の内容一部除く。
底板面以下の容量は、一括し全量を測定する。                    

1)底板面をどの位置に設定するかは、深さを測ることが可能な範囲で、任意とするが、
底板面以下の容量は、空寸として認識されないため、その点に十分留意する。

2)底板面以下の容量は、デジタル台秤を使い肩面、胴面、に用いた方法により、秤取る
容器の風袋を引いた正味重量の累計として1kg=1ℓとして計測する。

3)定板面まで測定を終了し、底板面の空寸が確定した時点で、空寸を計測した測定者は、
タンクから降りる。

4)検尺作業の人がタンクから降りた後、タンクの傾斜を必要とするタンクについては、
ジャッキで慎重に傾斜させ底板面以下の流量計による払い出し測定に入る。あらたに傾斜した
タンクにはしごを掛け、マンホールから底部呑口が見える観察者を用意し、容器内の水は
順次減っていく様子を観察し、流量計に空気を吸い込まない程度にタンク底部に水が残るまで
払い出す。

5)底板面以下の測定数量は、流量計区分+残り重量計量区分(正味重量)の合計とする。


【step-4】以下の操作は、重量払い出し法として記載した方法に順ずる。

【その他注意事項】
10㎘以上の容量のタンクの水測を架設の場所で行う場合は、可能な限り明るく、広い余裕のある
作業空間を確保する。タンクは、床面から検尺口までの高さが2mを超える高さになる。
特に空寸を測定するためにタンク上部に上がる作業者は、足場の安全に配慮し、必ずフルファーネ
タイプの安全帯を装着し作業を行う。

勝木 慶一郎氏 紹介

・醸造家酒造歴:50年、佐賀 五町田酒造45年、京都 松本酒造5年
・特技:酒造工程の改善、SDKアルコール分析法の考案
・趣味:写真機、世界中のBeerを一種類でも多く飲む、真空管ラジオで短波放送を聴く

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