コラム勝木氏 コラム

勝木氏 コラム

第二話「木造酒蔵の構造と配置」

(景観に配慮された最も木造蔵としての完成度が
高い時代の遺産)


日本酒醸造界のレジェンド、勝木慶一郎氏による
連載コラム第二話です。

■勝木 慶一郎氏 紹介
・醸造家酒造歴:50年
 佐賀 五町田酒造45年、京都 松本酒造5年
・特技:酒造工程の改善
 SDKアルコール分析法の考案
・趣味:写真機、世界中のBeerを一種類でも
 多く飲む、真空管ラジオで短波放送を聴く

醸造酒は使用する原料により大きく二つに分けられる.代表的な果実を用いるWineであり、穀物を用いるBeerと清酒である。取りわけ清酒醸造における原料の重要性において、穀物原料は保存性も良く十分輸送可能であり、むしろもう一つの主原料「水」の重要性を先に説明した。仕込み水の重要性を確信し松本酒造は、京都市内から市外南部に位置する「伏見」へ蔵を移転させた。「伏見」とは「伏した水」を表しており、良質な地下水が豊富な地域です。調査を進め移転計画を実行に移し大正14年仕込みに使う大黒蔵の落成を迎えました。
もう一つ、この場所に蔵を定めた最も大きな理由の一つに街の町名があります。古来より日本では、七福神をお参りすると七つの災難が除かれ、七つの幸福が授かると言われ縁起をかつぎ七人の神様を祭ります。恵比寿天(えびすてん)、大黒天(だいこくてん)、福(ふく)禄(ろく)寿(じゅ)、毘沙門天(びしゃもんてん)、布袋尊(ほていそん)、寿老人(じゅろうじん)、弁財天(べんざいてん)を七福神と呼び室町期以来、遠くインド、中国、東南アジアの古い文化の交流を今に伝え信仰されています。蔵の南側が米俵を持つ大黒天から大黒町と呼ばれ、東側の通りは鯛を抱える恵比天から恵美酒町と伝わる五穀豊穣と商売繁盛を身近に感じられる場所に蔵を設けました。


松本酒造株式会社 施設配置図 敷地面積6,000坪 建物 18棟
大手筋通りから正門を入ると直ぐ右側に木立に囲まれた和風庭園を設えた「万暁院(まんぎょういん)」A1. A2.がある。正面の木造蔵G.は京都市内、七条にあった旧酒造蔵を移築した。広場左手に事務所C.奥に大黒蔵B.を配置している。更に冷蔵庫棟E、精米工場F、を従えている。
A1. 万暁院:酒造場迎賓館 A2. 付属京風庭園 B. 大黒蔵:仕込み蔵
C. 事務所受付 D. 製品瓶詰場   E. 製品冷蔵庫
F. 精米工場 G. 旧酒造蔵(製品仕上) H. 分析研究室
I. ボイラー室:赤煉瓦煙突


さて、移転を決めて最初の作業として数カ所の井戸を敷地内に掘りました。
現在蔵の敷地内には、井戸が七カ所あります。

敷地内の井戸の一つ「大黒井戸」 
仕込み蔵と煉瓦蔵の中庭にあり主な仕込み水に使用している。
敷地内の蔵の配置と酒を仕込む「大黒蔵」の構造を見てみよう。木造建築の清酒醸造蔵として作業性に優れた最も合理的に完成したスタイルを持っている。



三連棟で蔵は構成されており、前後の小屋組は、和式であり中間の蔵は、クイーンポストトラス形式で組まれている。中柱と二階が無く吹き抜けで甑からの蒸気を天井のガラリで逃がし、土間は道具や器具の洗いと熱殺菌に用いるために熱湯から部屋に籠もる「湯気」からの除湿と天井へ換気する工夫が施されている。




清酒醸造は、江戸の後期に完成を見た「寒づくり」を基本的に継承している。原料である白米を清水で洗い、水を適量含ませた後、水を切り蒸籠を用いて蒸す。冬の清浄な冷気により目的に応じた品温まで冷ます。その為の工夫として土間に近い平面に外気を取り入れる「地窓」を配し、一階天井部分及び二階床上には連装の換気窓を配している。蔵の周囲の基礎部分は幅30cmx高さ40cm長さ2mの石の棒を横六段積みにして地中梁を巡らして基礎を固め、中央正面の「黒壁」は板の厚さが六分(18mm)の「焼き杉」を打ち梅雨の長雨、秋の台風に耐える実用的な工夫が施され、最上部分の壁に「白壁」を用いて、アクセントを付け、赤いレンガ煙突と、赤、黒、白、三色上手に調和し創建当時から今では普通に取り入れる「景観の調和」に既に配慮されていた事がわかる。


Photo : 赤煉瓦煙突、大黒蔵、冷蔵庫、精米所を高瀬川から望む  2020.12.02






Photo:大黒蔵 仕込みに用いるタンクが並ぶ






Photo: 二階の空間は洗濯物を乾かす

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